外国人を理由とした取引・賃貸拒絶は違法行為か?

まえがき

 筆者曰く、この原稿を書いている今現在は、一都3県を対象とした緊急事態宣言が発令されている頃です。昨年春に続いて2回目の緊急事態宣言になります。

 後日、当コラムを読み返すころには、

「あ~、そういえば緊急事態宣言なんてあったねぇ」なんて、新型コロナなど脳裏から消し去った状態に戻りたいものですね。

 で、そんな人の移動がままならぬ足下の状況ですが、近年の傾向として不動産の売買取引、賃貸等において、外国人が当事者となって現れる事が多々見られるようになってまいりました。

 今回は外国人との不動産取引について書かせていただきました。

1.外国人を理由にした拒絶

 今回、取り上げさせていただきますのでは、日本にある不動産についての取引や賃貸借を外国出身の方と行うケースを想定しております。日本に準拠した法律と商慣行が主になってまいります。

参考文献は国土交通省web-site
不動産事業者のための国際対応実務マニュアル  ~宅地・建物取引におけるトラブル防止に向けて~』 

平成29年8月とありますので、若干古いですが、よく網羅されておりますので、有用だと思います。

 さて、今回の表題でもあります『外国人を理由とした取引・賃貸拒絶は違法行為か?』の問いに対しての回答は以下になります。

日本は、国際人権B 規約や人種差別撤廃条約といった人種差別を根絶する条約に批准・
加入しており、社会的・経済的生活等において人種差別を禁止しています。また、最高規範である憲法においても、法の下の平等として人種により差別されないことを権利として認めているところ(憲法第14 条)、法の下の平等の趣旨は特段の事由のない限り、外国人にも類推適用されると考えられています(最高裁昭和39 年11 月18 日判決参照)。

もっとも、条約や憲法は不動産取引といった民間の権利関係を直接決めるものではありません。
しかし、民間の権利関係を決める民法においても、信義則(民法第1 条2 項)や不法行為の「違法性」(民法第709 条)等の解釈において反映される形で間接的に適用されると考えられています。そのため、不動産取引において外国人に対する差別や偏見に基づいて、次頁のコラム(2)に掲げる判例のような取引・賃貸拒絶等をしてしまうと、不動産の所有者等が、損害賠償請求の訴訟を提起される可能性があります。(原文のママ)

※監修:日本不動産研究所 弁護士 安倍康弘

 との事です。また、上記の文章中『次頁のコラム(2)』とあるのが、具体的な外国人による不動産取引におけるトラブルの事例を敷衍しております。

2.トラブルの事例

日本人同士であれば、その生活環境や文化的背景にそうそう大きな差異は見られないか、もしれません。が、異国の方ともなれば、言わずとも伝わるであろう空気感もありません。

取引慣習の違いから、トラブルになった事例もあるようです。

日付・裁判所事案の概要
平成5 年 6 月18 日 大阪地裁被告ら(マンション所有者及び仲介会社)が、原告が在日韓国人であることを理由にマンションの賃貸借契約の契約締結を拒否したことを理由に、契約準備段階における信義則上の義務に違反したとして、運送契約の違約金や慰謝料等26 万7000 円の損害賠償義務を認めた事例
平成15 年 1 月14 日 さいたま地裁インド国籍を有する原告が、被告ら(不動産仲介業者及び従業員)に、賃貸住宅に関する問い合わせをしたところ、被告従業員が肌の色について執拗に質問をしたことにつき、不法行為及び使用者責任を認め、50 万円の損害賠償義務を認めた事例
平成16 年 4 月27 日 東京地裁在日韓国人である原告が、被告会社の仲介により、被告代表取締役が経営するX 社の建物を賃借しようとした際に、民族的差別発言を受けたことが違法であるとして不法行為を認め、被告代表取締役に対し10 万円の損害賠償請求を認めた事例
平成19 年 10 月4 日 京都地裁賃貸マンションの所有者である被告が、入居予定者である原告が日本国籍を有していなかったことを理由として賃貸借契約の締結を拒絶したことにつき、不法行為に基づき、慰謝料等110 万円の損害賠償を認めた事例
不動産事業者のための 国際対応 実務 マニュアル

こうして見ると、一見損害賠償金額が比較的小さいように思えますが、上記の事例は全て賃貸借に係る取引である事がその主な要因と考えられます。筆者は、これらの概要のみをうかがい知るのみなので、訴訟に至った背景までは知る由もございません。が、損害賠償金額の多寡ではなく訴訟へと決意をした原告の心境を察するに余りあるのではないでしょうか。

非常にセンシティブな、問題であろうと思いますので、くれぐれも留意なさったほうがよろしいかと思います。

あとがき

筆者曰く、ご説明させていただいておりましたら、頁数がかさんでまいりましたので、今回は賃貸編のみにて締めさせていただきたく存じます。

また、問題提起をとその事例のご紹介をさせていただいておりますので、これらに対する対応策として下記の資料をご紹介させていただきます。(今回は引用が多いですね💧)

『あんしん賃貸支援事業と外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン』

凄いのは、日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語の6か国語で作成された『入居申込書』等の書類まで用意されているところです。

ご参考になれば幸甚です。

<了>