まえがき
「隣の土地は借金してでも買え」とは昔から言われている言葉です。
確かに隣の土地を買えば、単純に所有土地の面積が広くなります。庭や、駐車場が広くなって使い勝手がよくなったり、建物の増築等の可能性が出てきそうです。そういったわけで不動産が売却物件化した場合に、まず媒介受けた営業マンが売り込みにあたるのは、ご近所からというのは定石と言えます。
今回は借金してでも買うことに関して経済的合理性の有無を不動産鑑定評価理論の観点から検証してみたいと思います。
1.他にもある価格の種類
不動産鑑定評価基準(不動産鑑定士が鑑定評価を行う際に準拠しなければならないもの。)には隣地を買う場合の考え方も、あらかじめ規定されております。
基準第5章 価格の種類の一節から以下の一節をどうぞ。
限定価格
不動産鑑定評価基準 (平成26 年5月1日一部改正)より一部抜粋
限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産
との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場
概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相
対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正
に表示する価格をいう。
限定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。
(1)借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合
(2)隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合
(3)経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合
余談になりますが、価格の種類を全て下記に書かせていただきますとこうなります。
- 正常価格 基本的にはこの正常価格を求める事になります。
- 限定価格 上記に記載しているため割愛します。
- 特定価格 証券化対象不動産に係る鑑定評価、民事再生法等の場合になります。
- 特殊価格 文化財等の一般的に市場性を有しない不動産。
2.市場価値と乖離
さて、余談から本筋に戻ります。
前節に掲げさせていただきました限定価格の定義中黄色ハイライト&下線部の「市場価値と乖離する」が“借金してでも買え”ということの一般的な経済合理性からやや逸脱してでも隣地取得を進める根拠になります。
例えば、上記の例が考えられます。この場合はA土地所有者が、隣地であるB土地を買う時がその場合に該当します。
A土地所有者からするとB土地を買ったほうがいい理由の一つに挙げられるのは、地形になります。A土地単体であれば、不整形地になってしまい、評点、土地価格の査定において個別性が、整形地に比べてやや低くならざるをえないのが一般的です。いわゆる旗状竿地になっているからです。道路に面する間口と路地状部分の距離によっては建築できる建物に制限等があり、制限された建物の規模用途に加え更に、建築の際にも人手が余計に加算されることから建築単価が上昇、それにつれて土地単価が割安になる傾向になります。
したがってA土地所有者がB土地を買収する事によって不整形地、旗状竿地を解消して立派な整形地へと生まれ変わることになります。つまり土地単価が上昇することになり、全体の価格が増加します。そのため、一般的な価格(この場合は全くの第三者であるCがB土地を購入しようという価格)より、ある一定の限度があるものの割高でも容認されるという事になります。
計算式はここでは割愛させていただきます。
3.ほかの場合
同様に図2を掲示しました。この時、A土地はB土地を所有する事によって併合後の土地の効用が増す(つまり、土地単価が増加する)ことが出来れば、B土地を多少高く買ってもよさそうです。が、この場合は図1と違って劇的な使い勝手がよさそうに見えるようには見えません。間口が広くなる効用増はありますが、併合土地の単価が増加しにくいので、難しそうです。つまり、無理してでも買うのは見合わせたほうがよさそうですね。
図3の場合はどうでしょうか?A土地は現在のところ、れっきとした無道路地ですので、土地価格は、一般的な価格に比べて半値ぐらいではないでしょうか?道路付けがないので建物が立たないし、他人地(この場合はB土地)を通らせてもらわないとたどり着けない。
こういった場合がA土地所有者がB土地を頑張って買うことになります。
あとがき
隣地は借金してでも買えとはいうものの、図2のようなケースもあります。併合後の土地の単価が増加する場合は、頑張って割高に買ってもいいですが、そうでない場合もありますので、慎重に検討したほうがよさそうです。
逆にB土地の所有者の立場から考えれば、図1、図3のような併合後の土地単価が増加する事を考慮に入れてまず初めにA土地所有者に売却を持ち掛けるのが良さそうです。
<了>