賃料改定のかたち

まえがき

既に書いた気になっていて、スルーしていたテーマを今回は取り上げたいと思います。

それは、賃料についてです。

 不動産鑑定士が、法によってもとめる事ができるのは、価格。ですが、もうひとつありまして前振りしたように、賃料です。

 価格を元本として、その果実として賃料が存在するという相関関係の元に成り立っております。

収益不動産の価格算定するにあたり、皆様ご存じの収益還元の公式(賃料 ÷ 利回り = 価格)というのは、理論的にこの相関関係があるからなのです。

1.賃料の定義

賃料とは? 実は3種類あります。

不動産鑑定評価基準より引用

Ⅱ 賃料
不動産の鑑定評価によって求める賃料は、一般的には正常賃料又は継続賃料でるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定賃料を求めることができる場合があるので、依頼目的に対応した条件を踏まえてこれを適切に判断し、明確にすべきである。

1.正常賃料
正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等(賃借権若しくは地上権又は地役権に基づき、不動産を使用し、又は収益することをいう。)の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)をいう。

2.限定賃料
限定賃料とは、限定価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料(新規賃料)をいう。限定賃料を求めることができる場合を例示すれば、次のとおりである。
(1)隣接不動産の併合使用を前提とする賃貸借等に関連する場合
(2)経済合理性に反する不動産の分割使用を前提とする賃貸借等に関連する場合

3.継続賃料
継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいう。

不動産鑑定評価基準

 このうち2の限定賃料というのはほぼほぼお目にかかった事はございませんし、ちょっと想像しにくいです。

 なので、賃料とは1 正常賃料と3 継続賃料の2種類でいいかと思います。また、正常賃料は、その前提条件を成立しているのであれば、そのかっこ書きであります新規賃料と考えてよいかと思います。

2.新規賃料と継続賃料

 上段でお読みいただいたように、新規賃料は新規に募集される賃料です。

一般的に賃貸物件を掲載している物件サイト(SUUMOさん、HOMESさん等々)ある中で募集されている賃料の種類は全て新規賃料になります。現在空室若しくは、空室になることがほぼほぼ確定されている中での新規に賃借人を募集している賃料の事になります。(正確に言うとこの段階ではまだ募集段階、賃貸借契約を成約させて初めて新規賃料として成立します。)

 この事については、理解されるのに特段難しくはないと思います。

 では、一方で継続賃料はどこのサイトに掲載されているでしょうか?

 正解はどこにも掲載されてません。

継続賃料というのは、各当事者間(賃貸人と賃借人)の間で成立する賃料になります。賃貸借契約の内容は、その契約の条文上規定されているであろう秘密保守義務があり、一般常識としての守秘義務の壁があります。

 何が起きるかと言いますと、とある空室があったとします。周辺相場との賃貸条件等を勘案して募集賃料を月額10万円と査定する事ができます。これが新規賃料です。賃貸市場と貸し手の思惑から導き出される最適解といえます。

 ところが、今現在、この部屋が月額8万円で賃貸に供されていた場合、次の更新時において賃料を如何にすべきでしょうか?上段のように新規に募集かければ月額10万円というのが妥当の場合に、次の改定時から10万円でお願いします。とはいかないのが継続賃料の場合です。賃借人の立場からは、現行賃料の月額8万円を基準に考えているものであり、10万円というのは寝耳に水状態という考え方です。継続賃料の鑑定を行うにあたり、その評価の手法が規定されております。

3.差額配分法の考え方

不動産の賃料を求める鑑定評価の手法は、新規賃料にあっては積算法、賃貸事例比較法、収益分析法等があり、継続賃料にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、 賃貸事例比較法等がある

不動産鑑定評価基準より引用(太文字は筆者)

 継続賃料を求めるには、4つの手法があります。差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法の4つのうち、独特の考え方である差額配分法を取り上げたいと思います。

差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人等に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法である。

意義を引用しました。(不動産鑑定評価基準から)

 簡単な例えにしますと

現行賃料が8万円、新規賃料が10万円だったとき、その差額が10万円-8万円=2万円。

その差額の2万円の半額の1万円を賃借人が負担。つまり8万円+1万円=9万円というわけです。

 正常な市場(なんのしがらみもなく、自由競争)の下に成約するであろう賃料が10万円のところが、9万円で成立するのが差額配分法による賃料(イコール継続賃料というわけではないです)ということになります。

 この現行賃料である8万円を念頭に踏まえて継続賃料が算定されていくのですが、ここでの8万円て何?

 というのが永年の疑問でしたが、一つのヒントを見つけました。

【アンカリング効果とは】具体例・心理学の実験からわかりやすく解説

事前に提示された意味のない数字が、文字通りアンカー(いかり)となり、後の数値の見積もりや推定といったに影響を与える現象のこと

【アンカリング効果とは】具体例・心理学の実験からわかりやすく解説

 上記の説明文中、「意味のない」というのはこの場合は、不適当かと思いますが、心理学的に影響を及ぼしているという事で得心いたしました。

あとがき

 この継続賃料というのは、裁判になりがちな種類の案件です。法人が賃借する店舗や事務所の賃料ともなると百万円単位になります。そして継続賃料は個別性が高く、明確な客観的基準の立証が難しいのでので、その減額、増額ともなると争う事になるのであろうかと思います。

<了>