なぜ、最有効使用が重要なのか? ~ご家庭で役立つ不動産鑑定理論~

まえがき

 昔は、結構多くの家庭の本棚に『家庭の医学』が鎮座してあったような思い出があります。すごく分厚い図鑑のようなもので、興味本位で読み進めるようなもんではなく、身体に変調を感じたときに、症状に合わせて検索するような利用方法だった気がします。

今や、google先生に検索を頑張ってもらうので、図鑑を備えておくことはあまりないかもしれません。

家庭のごく日常のスペースに、似つかわしくない専門書を常備してあった感覚で、機に応じて不動産鑑定の知見をご利用いただくのが一つの理想かもとも思います。

1.最有効使用とは

 最有効使用は、不動産鑑定評価の基礎となる『不動産鑑定評価基準』において規定されております。そして、この最有効使用とはこの不動産鑑定の中核、(よく試験に出ます)新世紀エヴァンゲリオンでいうセントラルドグマぐらい最重要な考え方です。

不動産の価格に関する原則の7原則のうちの一つに規定されております。
最有効使用の原則の定義はこちらになります。

不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。
なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべきである。

国土交通省 不動産鑑定評価基準

 不動産鑑定の全体の流れをご説明すると、対象不動産の依頼を受けたところから始まり、対象不動産を確定し、一般的要因の分析、地域分析を行い、個別的要因を分析して、最有効使用を判定します。ここまでが、全体のうちのちょうど折り返し点で、これまでは定性的な分析をすることになります。その後で価格の方式を適用して定量的分析、つまり価格を算定していく作業を進める事になります。そして最後に鑑定評価額を決定するのがゴールになります。

2.最有効使用の判定

不動産鑑定評価基準中の『個別分析』の項目から抜粋したのが下記になります。

不動産の価格は、その不動産の最有効使用を前提として把握される価格を標準として形成されるものであるから、不動産の鑑定評価に当たっては、対象不動産の最有効使用を判定する必要がある。個別分析とは、対象不動産の個別的要因が対象不動産の利用形態と価格形成についてどのような影響力を持っているかを分析してその最有効使用を判定することをいう。

不動産の価格は、最有効使用に基づいて価格が形成されると定義づけられております。

前述の「1 最有効使用の原則」で引用しております下線部:良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法が最も効用が高い使用方法、価値が高いことから、競争市場において最も高い価格を提示できる人=イメージすれば、入札で高値を提示した人が想定している不動産の使い方です。

例えば、対象不動産が更地で、隣近所が戸建住宅が建ち並んでおり、地積も戸建住宅用地に適した大きさであったとします。この場合は、標準的使用(近隣地域の使用方法)は戸建住宅としての利用と考えられ、最有効使用もまた、戸建住宅用地としての利用と判定されるの一般的です。地積と用途地域(住宅系の用途地域で、容積率も100%~200%程度)から、いって、とうてい高層ビルは建ちませんし、田畑にしてしまっては固都税が高くもったいない使い方になります。

最有効使用の判定の実例をお見せいたします。

令和2年地価公示 新宿5-9(弊社が入居させていただいております新宿住友ビル)の鑑定評価書の一部抜粋になります。

 赤丸で囲みましたように「超高層店舗付事務所地」とありますね。

実際に建っているのは、地上52階、地下4階の店舗付事務所ビルですので、最有効使用通りの使用方法という事が言えます。

 例えば、タワーマンションを想定したとすると、想定した分譲価格とその仕入れとなる土地価格が超高層事務所地を下回って低廉に算定されることになるであろうと考えられます。

3.現実的には

 下記は「自用の建物及びその敷地」の鑑定に関する各論です。ここにも最有効使用の考え方が反映されています。

なお、建物の用途を変更し、又は建物の構造等を改造して使用することが最有効使用と認められ
る場合における自用の建物及びその敷地の鑑定評価額は、用途変更等を行った後の経済価値の
上昇の程度、必要とされる改造費等を考慮して決定するものとする。
また、建物を取り壊すことが最有効使用と認められる場合における自用の建物及びその敷地の
鑑定評価額は、建物の解体による発生材料の価格から取壊し、除去、運搬等に必要な経費を控除
した額を、当該敷地の最有効使用に基づく価格に加減して決定するものとする。

※「自用の建物及びその敷地」は、所有者が建物を自己利用しているケースです。例は自己居住の戸建住宅や自社ビルなどです。貸家、アパートにおいてもこの考え方は、適用可能と思います。

 上記の2段落あるうちの一番目の「なお」書き以降の文章がリノベーション工事を施したあとの効用増加、バリューアップに関する記述です。

 「また」書き以降の2段落目の文章は、取り壊し最有効使用に関する記述です。現状の建物が老朽化している場合は、建物取り壊ししたほうが価値が増す、更地のほうが、建物を最大限に活かすための最大最高の使用方法を立案できる人が提示する価格に定まっていくということになるからです。

  かしこまった文章だとわかりにくいですが、直観的に理解はできるのではないでしょうか。

 これらを定量化して試算すれば、より説得力を持った最有効使用の判定ができるかと思います。

まとめ

  おそらく、この最有効使用の考え方は、なんとなく感の中で腑に落ちる考え方なのではないでしょうか。

  ご家庭で役に立つ不動産鑑定評価の一環として書かせていただきました。

<了>