収益価格は積算価格より高いのが普通ですか?

まえがき

『収益価格は積算価格の2倍ですよね?』

というようなご質問を前に受けた事がありました。どのような場合においても、この関係式が成立するわけではないと思います。この論点については、一度とりあげてみたいと思っておりました。

不動産鑑定評価基準の歴史的変遷から積算価格と収益価格の捉え方を見ていきたいと思います。

1.平成2年以前

不動産鑑定評価基準(ふどうさんかんていひょうかきじゅん)とは、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行う際に拠り所とする統一的基準をいう。不動産の鑑定評価に関する法律に基づいて1964年に制定された。

不動産鑑定評価基準

 1964年版(昭和39年?)は、探したのですが確認できませんでした。その後の改正が平成3年版になされたと記憶しております。まぁ、こちらの平成3年版も国土交通省公式には掲示されておりませんでした。

 なので、筆者の記憶を頼りに紐解くことになります。

平成3年版の不動産鑑定評価基準を読む限りにおいては、小生の記憶において『収益価格は高騰する価格の験証手段として活用すべきである。』と記載されていたと思います。

なお、市場における土地の取引価格の上昇が著しいときは、その価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手 段として、この手法が活用されるべきである。

不動産鑑定評価基準 国土交通省

上記は平成14年7月3日付全面改正された版ですが、当該記述は残っていました。

 当該基準に接した時期が、平成10年の不動産鑑定士2次試験受験時でした。

しばらく前(平成2年?)にバブル崩壊して、株価と共に地価が下落傾向にあったころです。そのような時代背景時に当該文章を読むとなんとも言えない違和感を覚えました。

が、当時は試験が迫っていましたので、違和感まるごと飲み込んで丸暗記いたしました。

 この謎は、改訂年月日にありました。直近の改訂時が平成3年であったことから、わかりました。直前のバブル景気、土地投機ブームが、その背景にあったがために、これを重く見た首脳陣?というのか、関連部署の偉い方が、改訂した模様です。土地投機の抑制を行うために収益還元法の適用によって利回りの根拠なしの土地の高買いを止める。ということのようです。

ここから考えるに投機目的による土地買い
(比準価格)≒ 積算価格 > 収益価格

 という図式をイメージしていたと推察されます。収益還元法が導き出される価格が常に理性的ということになります。(投機的な利回りというのもありますが、ここでは捨象します。)

 ゆうちょの定期預金が年利8%!な時期でもありましたので上記の式は成立していたのもあります。

 補足説明いたしますと、上記の関係式中で積算価格と近似している旨記載しております。

土地の価格査定にあたっては、比準価格(これは取引事例比較法という手法から求められる価格)と収益価格(土地に建物を建築し、賃貸を想定して得られる収益から求める価格)の2手法になります。また、ここでいう積算価格は土地価格については、比準価格から得られるので、常時の近似する(≒)といたしました。

2.平成2年以降

 かくして、バブル崩壊以降は土地価格が年々下落傾向にありましたことはいうまでもありません。地価は、年々下落していきました。

 そういった中で、鑑定評価を行っていったわけですが、そもそも鑑定評価の理論の中で、

不動産の持つ価格の三面性

 不動産の価格は、一般に、
(1)その不動産に対してわれわれが認める効用
(2)その不動産の相対的稀少性
(3)その不動産に対する有効需要
の三者の相関結合によって生ずる不動産の経済価値を、 貨幣額をもって表示したものである。

 の三面性をそれぞれ反映した価格の三手法(原価法、取引事例比較法、収益還元法)の適用によって求められる3試算価格は、限りなく一致するかあるいは、一致しない場合にはその原因を究明するのが必然とされていたかと思います。(たぶん、当時の空気的に)

 で、この時期は、土地価格が下落していきます。一方で賃料は土地価格が下落するのにくらべ遅行性(これは、別章で説明する予定です。)を有しているため、それほど下がりません。というわけで

積算価格 < 収益価格

と、いう関係式が成り立つ事が多くありました。先ほど述べましたように、契約締結時においては、対象不動産の経済価値に相応した賃料の賃貸借契約が締結されました。その後土地価格が下落する一方、賃料は据え置きであったがために、収益価格が高止まりしたままになっちゃいました的な考えが成立していたかと思います。

3.平成25年以後

 上記の下落傾向から、いったん回復し上昇基調に戻り、平成19年をピークにしたミニバブルとなり、ついで平成20年のリーマンショックによる再びの地価下落。再び異次元の金融緩和、アベノミクスによる景気拡大から地価上昇が見られます。そして現在に至ります。(ちょっと雑な説明ですみません。現在時点に話を戻したかったからに他なりません)

 昨今の業界人の皆さん及び、投資家の方とのお話を聞くにつれて、やっぱり

積算価格 < 収益価格

というのは、至極当然のように受け止めれらているようです。この二価格の開差が開きっぱなしで、縮小させないと気持ちが悪いと思うのは、一部の少数派?だけなでしょうか?

また、平成26年5月1日付一部改正にて加わった部分が下記になります。

Ⅱ 原価法 >2.適用方法>(2)再調達原価を求める方法

これらの場合における通常の付帯費用には、建物引渡しまでに発注者が負担する通常の資金調達費用や標準的な開発リスク相当額等が含まれる場合があることに留意する必要がある。

 原価法(積算価格を算出する手法)の項目で、この時点で初めて加筆された一文になります。積算価格の項目で従来になかった通常の付帯費用の項目を計上する事によって、再調達原価、積算価格を上方修正することにより、収益価格と積算価格の開差を縮小させようとするのがその主旨とも受け止められます。

前記の2の地価下落、賃料据え置き局面であれば、収益価格が高止まりしているような説明がつきますが、この地価上昇局面では何とも説明しがたい状況ではあると思います。

簡単にいうと土地を買い、建物を建築します。ここまでは、積算価格です。その建物の賃貸を想定します。すると収益物件に早変わり!収益価格で算定する事になります。見方を変えるだけで価格が跳ね上がる??

積算価格 < 収益価格 
収益価格 - 積算価格 = 開発利益?

ということで得心するようです。

まとめ

 歴史的な金融緩和を背景にした低金利を基にした上で、不動産の価格のありかたを示すメソッドの再構築をする必要があるような気がしないでもないのです。

引き続き課題ということにさせてください。

<了>