誰にでもできるかんたん立ち退き ~即決和解の解説~

まえがき

 『立ち退き』、皆様も大家道をまい進する上で避けて通れないのが、この言葉がではないでしょうか?立ち退きさせられるほうもたまりませんが、立ち退きさせるほうも心が弾むものでもないのが、一般的です。

 そんななか、今回は意外と知られていない『即決和解』のご説明をいたします。

1.正式名称

 その正式な名前は『訴え提起前の和解』となります。根拠条文は民事訴訟法第267条と言われております。

 読んで字のごとく、裁判に訴える前に当事者(追い出す方と追い出される方)の両方が仲良く?合意します。書面でもって合意の証を残すことになります。その合意の内容が裁判所が問題ないと認めた場合に成立いたします。

 そしてその合意の内容が破られた場合に、合意の内容が、

「何月何日までに、この部屋を退去いたします。」といった場合に所定の期日に立ち退かなかった場合において、裁判所に申し出れば執行命令を出してもらえるというのが大きな永です。

 例えばこれが、「即決和解」を利用しなかった場合にどうなるか?

退去の合意がとれた段階で、退去の覚書を締結する事になると思われます。そして約束の期日に立ち退かなかったとすると。改めて紛争になるかと思います。で、揉めたところでどうにもならないので、裁判所に訴訟することになることでしょう。この時の訴訟の種類は確定判決になり、債務名義の獲得が争点になることとなります。そして無事債務名義を勝ち取った後に今度は給付判決を求めて訴える事になります。つまり裁判を2回。  それに引き換え、即決和解を一度締結しておけば、協議が破られれば即執行です。

全体の流れについては東京簡易裁判所のサイトを下記に↓

各種民事紛争の発生
 訴え提起前の和解は,裁判上の和解の一種で,民事上の争いのある当事者が,判決を求める訴訟を提起する前に,簡易裁判所に和解の申立てをし,紛争を解決する手続です。当事者間に合意があり,かつ,裁判所がその合意を相当と認めた場合に和解が成立し,合意内容が和解調書に記載されることにより…

訴え提起前の和解手続の流れ

2.公正証書

 不動産界隈で馴染み深いのは、公正証書ではないでしょうか?

事業用定期借地権(借地借家法第24条)の契約締結においては、公正証書をもって契約する事がマストとされています。(試験に出ます)

 正確には

公正証書とは,私人(個人又は会社その他の法人)からの嘱託により,公証人がその権限に基づいて作成する文書のことです。

一般に,公務員が作成した文書を公文書といい,私人が作成した私文書とは区別されています。公文書は,公正な第三者である公務員がその権限に基づいて作成した文書ですから,文書の成立について真正である(その文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたものである)との強い推定が働きます。これを形式的証明力ともいいます。文書の成立が真正であるかどうかに争いがある場合,公文書であれば真正であるとの強い推定が働きますので,これを争う相手方の方でそれが虚偽であるとの疑いを容れる反証をしない限り,この推定は破れません。公文書が私文書に比べて証明力が高いというのは,このような効果を指しています。

公証制度について

 この公正証書を作成するにあたり、スケジュール調整を行い公証人役場に出向いて作成するので、手間暇と料金も発生する事になりますが、なにより証拠能力が高いです。

いわゆる「本契約による金銭債務を履行しない場合には、強制執行を行う」という強制執行認諾条項を文中に記載する事ができれば、先ほどの即決和解同様に違約を確認した度同時に即執行(厳密には裁判所に強制執行を申請する手間はあります)できます。

一時期は定期建物賃貸借契約書も強制執行認諾文つきの公正証書で締結されるケースもあったかと記憶しております。(最近は見ないですね)この認諾文の存否は契約締結時の貸し手と借り手のバーゲニングパワーによるものだったと思います。

とはいうものの、こちらの公正証書による強制執行は金銭債務に対しては有効ではあるものの、不動産の立退きに際しての強制執行は出来ないのがちょっと残念なところかとおもいます。一定のプレッシャーにはなるかと思います。

3.即決和解の例

 では、どのような場合に即決和解が使われるのでしょうか?

立ち退きがまとまった退去予定の元賃借人と所有者との間で結ばれケースが多いのではないでしょうか。地上げで話がまとまった後の展開ですね。期日には間違いなく元賃借人が明け渡すという事を担保する意味で多少の費用をかけてでも建物所有者は当該手法を利用する事になります。元賃借人という微妙な言い回しになる理由は、賃貸借契約を双方合意の上、解除して何ら占有権原を有しない状況にしてからでないと即決和解は締結できない点が要注意です。

 このような立ち退きがまとまる前の段階で、賃料不払い等違約がつづく賃借人の退去までの若干の猶予と退去の確約のためやあるいは、建物更地化目的で賃借人に立ち退き交渉の結果として使われる事が多いかと思います。

 意外と盲点なのが、地方裁判所による不動産の競売には、強制執行がセット付いてきますが、国税の未納者への所有財産に対して財務局が行う公売には、裁判所が行う競売とは違い、伝家の宝刀、強制執行ができないのでくれぐれもご確認くださいませ。

あとがき

 金銭債権の回収担当者曰く

「何でも催促される方はいやだろうけど、催促する方もまた気分がよくはないのよね~」

との言葉でした。

 強制力は使うのも使われるのも避けたいですね。

<了>