令和2年都道府県地価調査を解説しました(そういえば、ここでも中の人でした)

まえがき

 さて、今週の水曜日である9月30日に令和2年都道府県地価調査が発表されました。

 価格時点は令和2年7月1日時点(7月1日の土地価格)になります。本年の1月下旬を境に新型コロナウィルスが世界中に蔓延して、現職の米国大統領ですら、感染する異常事態になりました。

 そんな新型コロナが流行以降の初の公的価格の発表は心待ちにしておりました。7月に発表されました相続税路線価は価格時点が令和二年1月1日時点なので新型コロナ以前の地価になります。

1.全体の俯瞰

国土交通省の公式サイトでの発表は以下のURLになります。

https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/tochi_fudousan_kensetsugyo_fr4_000001_00001.html

引用すると

令和元年7月以降の1年間の地価について 全国平均では、全用途平均は平成29年依頼3年ぶりに下落に転じた。住宅地では下落幅が拡大し、商業地は平成27年以来の5年ぶりに下落に転じ、工業地では3年連続の上昇であるが上昇幅が縮小した。

令和2年都道府県地価調査の実施状況及び地価の状況

というのが、全国平均の概観になります。気になった方もいらっしゃるかと思いますので、補足しますと、都道府県地価調査というのは毎年7月1日時点の価格を発表しているので、昨年の7月1日からの価格の変化という事になります。

 この一年間(令和元年7月1日~令和2年7月1日)のうち、後半の令和2年1月1日~令和2年7月1日が新型コロナの影響を受けたという事になります。

 実は数年前、小職も東京都内の都道府県地価調査の作業に従事していたことがあります。ここも中の人ではありました。

 今は多少違っているかもしれませんが、当時の作業のスケジュール感でいいますと、4月から現地(基準地:地価公示とはほとんど違うポイント、同一の所もあります。)の確認から始まり6月末頃には鑑定評価書の成果品を提出してfinishになります。同様の公的評価である地価公示に比べると地価公示は同一の公示地を2人の不動産鑑定士が鑑定評価をおこないます。このときの相手方をアイカン(相鑑と漢字をあてます)といいます。特殊な用語ですね。このアイカンとは同一のポイントを鑑定するので、齟齬がないように調整作業が必要になります。都道府県地価調査はこのアイカンがいないので、作業量がそれに比して少ないです。

 緊急事態宣言が発令した4月上旬から5月末までの約2ヶ月間が、当該都道府県地価調査の評価作業の大部分を占めると思われます。さぞご苦労もあおりだったかと思い、関係者の皆様には敬意を表します。

 この期間は、新型コロナが、報道がなされている頃なので、マインド的にネガティブな見方が強くなったのではなかろうかとの懸念もあります。

 鑑定評価の手順の一つである取引事例比較法を採用するにあたり、取引事例を収集する必要があります。タイミング的にいって採用する取引事例はさすがに、新型コロナ以降の事例は収集できないと思われます。そもそも取引が激減していますので。

新コロ以前の取引事例を採用して、時点修正(取引時点から価格時点(7月1日)までのプラスマイナスを乗じます)を行います。

 という事は、今回の価格はこの時点修正が肝だったと考えられます。

https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001364444.pdf

2.目立つポイント

 また、今回の上昇率(前年と今年の1年間の変動率、増加していれば上昇率で減少していれば下落率になります。)をみてみると。

全国で上昇率は

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001363520.pdf

この状況下でも力強く上げてますね。宮古島や沖縄本島が目立つ動きになっております。

一方で、下落率はというと

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001363525.pdf

なんと、全国1位は日野市にありました。18.6%の下落!

新型コロナと関係してましたっけ??

 基準地【日野-10】の鑑定評価書を見てみましょう。何かヒントが書いてあるかもしれません。

東京都財務局の東京都基準地価格はこちらです。
2鑑定評価額の決定の理由の要旨、(2)近隣地域の項目中、

⑤地域要因の将来

予測北急傾斜地の住宅地域で、平成30年春に土砂災害警戒区域が指定されてからは、土砂災害の危険性が危惧され需要は大幅に減少している。

とありました。新型コロナが直接の原因ではなさそうですね。

3.地価LOOKレポートとの相違

 前々回のコラムに書かせていただきました地価LOOKレポート

ここでは、都内の下落率が高かった台東区上野と新宿区歌舞伎町(夜の街)と100ポイント中唯一の上昇地区であった仙台市商業地区を検証してみたいと思います。

 地価lookの調査対象となるのは高度利用地区のため、全国規模の上昇率は宮古島などのリゾート地が多く占めているため、そもそもずれているのは容認するしかありません。

 また、評価の主体(評価担当者)も相違しております。地価LOOKレポートは一般財団法人 日本不動産研究所さんがおこなっており、都道府県地価調査は、当研究所に属しているわけではない不動産鑑定士が行うため同一人物が行っているわけではないので、まったく同一の見解が出るわけではありません。地区も異なります。

そのうえで比較すると以下に

地価LOOKレポート都道府県地価調査
仙台市青葉区 中央1丁目 0~3%上昇青葉5-1(中央2丁目) +7.6%
台東区上野 3~6%下落台東5-18(上野6丁目) +0.2%
新宿区歌舞伎町 3~6%下落新宿5-1(歌舞伎町1丁目) -5.0%

 上野に関しては商業地区といっても意外と広く、アメ横商店街もあれば一部ではオフィス立地もあるためその価格動向は、個別の地点によって異なるという事になりそうです。

あとがき

今回の価格の変動を見ると商業地とりわけ店舗、ホテル地域が影響大きく新宿区歌舞伎町の新宿5-1は前年の+17.2%の上昇率から一変して△5.0%の下落と価格変動が激しいようです。

 引き続き商業地については、注視が必要かと思われます。

<了>