ほどほど競売入門編 その2 ~中の人でした

 前回、書かせていただきました『ほどほど競売入門編 その1』の続編を書かせていただきます。

3.評価書の留意点 その2

⑤成り済まし建物

こんな表現は、適正かどうかはさておき、端的に表現するとこうなります。前回ご紹介した

②最新の住宅地図に「畑」の記号があるにも関わらず、現地に行ったらなぜか築50年ぐらいの農家住宅が建っていた事件

の場合は、本来建物の建ってない更地に歴史的趣のある年季の入った農家住宅が建っていたため、すぐに異変に気付きました。その経緯がなぞめいていましたが、当該案件はその応用問題になります。

 住宅地図には建物が所在、現況実査の結果も建物の現存を確認済。建物謄本も存在しておりました。

 ここまでみると何ら異常はないように感じられます。

が、やがて不思議な点を発見する事になります。ぱっと見延床面積が合わない…。

謎は解いてみせる。ジッチャンの名にかけて!

建物図面が存在していなかったため、謄本上の建物構造と現況建物の相違から詳細調べる事にしました。

 建物であれば、法務局備え付けの登記簿謄本の他に、市町村役所の税務課が所管する課税関係の書類を確認することになります。

なお、余談にはなりますが原則的に、個人の資産である評価証明書を取得できるのは本人、若しくは本人の委任状を持った代理人に限定されます。よくある不動産仲介業者が委任状を売り主様からもらって役所に行く建付けです。

競売の場合は、地方裁判所が評価人に下命する「評価命令」を提示することで、これらの課税関係の書類である「評価証明書」と「間取図」を窓口にて取得することができました。

「間取図」は、建物の内部の文字通り間取りが手書きで書いてあるものでした。

結果、わかったことは建物謄本の建物と現存する建物は別物と考えたほうが合理的という事でした。

抵当権が設定された建物を所有者が自力で取り壊し、その後に未登記建物を新築したのが実状のようです。

 別件でも、抵当権設定された建物を所有者さんが自ら重機を操縦して取り壊し(工務店の経営者さんなので心得があったようです)、新築した例がありました。この時は取り壊した建物の謄本を滅失登記していなかったため、建物が2棟現存している土地に建物謄本が3棟ある状態になってました。

※抵当権設定した建物を抵当権者に無断で破壊すると、抵当権侵害になりますので、ご注意ください。

⑥未登記建物の扱いは要注意!

競売は民事執行法がその根拠法となります。

当然、民法がその上位に位置し、この実体法となる民法で規定される権利関係を実現するために民事執行法で規定される手続きがあります。他に関連する法律は、不動産登記関連が多いかもしれません。中でも関係者の方に言ったら

「え、それマニアックですね。」

 と言われた事のある規則があります。

それが「不動産登記事務取扱手続準則第78条」になります。
下記引用になります。

第78条

1.効用上一体として利用される状態にある数棟の建物は,所有者の意思に反しない限り,1個の建物として取り扱うものとする。

2.1棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居,店舗,事務所又は倉庫その他の建物としての用途に供することができるものがある場合には,その各部分は,各別にこれを1個の建物として取り扱うものとする。ただし,所有者が同一であるときは,その所有者の意思に反しない限り,1棟の建物の全部又は隣接する数個の部分を1個の建物として取り扱うものとする。

3.数個の専有部分に通ずる廊下(例えば,アパートの各室に通ずる廊下)又は階段室,エレベーター室,屋上等建物の構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は,各別に1個の建物として取り扱うことができない。

不動産登記事務取扱手続準則第78条

まず1項をご覧ください。効用上一体と利用される数棟の建物は、所有者の意思に反しない限り、1個の建物として取り扱うものとすると規定されています。

 登記された建物であれば、一目瞭然であり、

主たる建物 居宅

符号 1 倉庫
符号 2 車庫

 この場合は、主たる建物(登記には主たるという記述はありませんが、表記の便宜上)の謄本の表題部にこれらの附属建物が記載される事になります。

 この建物間の主従関係が重要になります。この法律根拠は民法第87条になります。

1.物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする
2.従物は、主物の処分に従う。

民法条文解説.com 民法第87条第1項(主物及び従物)

第2項の規定により、主たる建物が抵当権設定されたことから、従たる建物にもその効力が及ぶことになり、主たる建物が競売実施されれば、その従たる建物である符号建物も競売に供されるという事になります。(試験に出ます。)

 主従関係が成り立つのは、これらの建物が全て同一人物の所有に帰すことが前提になります。

 厄介なのは、未登記建物の取り扱いです。

主たる建物が敷地内にあり、①所有者が同じで②建物間に主従関係が見られる場合に、未登記附属建物として、主たる建物が競売に供されるに伴い一緒に競売対象となります。

これら①と②の2条件が同時に成立して未登記附属建物になります。

 以前にあった例は、現況調査時の関係者の聴取からは、現地にあった「物置」を主たる建物「居宅」の同一人物の所有と判断、未登記附属建物として、競売対象と手続きを進めていました。

ところが、進むにつれ「物置」の所有者は「居宅」とは別人であると当初の判断が覆る事になりました。主従関係がなくなることから、「物置」は競売対象から外れ、単なる件外建物扱いに。

こうなると敷地内の一部に競売対象ではない建物及びその敷地が、含まれることになるので、扱いずらい物件になります。

今回は、マニアな論点に深入りしました。また次回に。

<続く>